忘れられる権利について

 欧州連合(EU)の欧州委員会(EC)が2011年11月4日に1995年制定のデータ保護指令(EU Data Protection Directive)を見直し、個人情報の収集と使用を必要最小限にとどめること、個人情報が誰によってどのように何のためにどれくらいの期間収集及び使用されるかユーザーに通知すること、またユーザーは十分な説明を受けた上で同意を与えること。そしてデータが不要になった場合あるいはデータを消去してほしい場合にユーザーが削除を要請できる権利(いわゆる忘れられる権利)を盛り込んだ新たな法規導入を目指した。
 
 そして、2014年5月13日にスペインの男性が米Googleに対して自身に対する情報へのリンクを検索結果から削除するよう求めていた裁判で欧州連合(EU)の欧州司法裁判所(ECJ)は原告の男性の主張を認める判決を下した。リンクは過去の新聞記事で記事の内容は1998年にこの男性の差し押さえられた不動産が競売にかけられたことを報じたもので、男性は2010年2月に情報の削除を求めて新聞社とGoogleをスペイン情報保護局(AEPD)に提訴していた。今回の判決を受け、複数の海外メディアはECJが「忘れられる権利」を支持したと報じた。

私の考え
 
 老若男女―多くの人々がインターネットを使う時代になり、「分からないことがあれば検索する」ということが日常になった。一部の人間しか持つことができなかったパソコンが非常に安価になり、小型化されたことで一般人に持てるようになったからだ。ここ最近ではスマートフォンの普及により、更に手軽にインターネットにアクセスすることができる環境が整った。またSNSの誕生によって顔や名前を見せることなく、様々な人々と繋がることが可能になった。多くの人々が使うインターネットは誰でも情報の発信者になることができる。今まではマスコミ報道にしかできなかったことがパソコンやスマートフォンなどの端末さえあればどんな人でも可能になった。
 
 情報を発信する者は身分を証明して情報を発信している。例をあげればこの記事はどこの新聞社の何々という記者が書いたものだと分かるようになっていた。しかしインターネットの情報発信についてはどうだろうか。不特定多数の人物達が正しい情報を発信していれば問題はないが全ての情報が正しいというのは不可能だろう。また、インターネットの世界では情報に責任を持つという考えがあまり重要視されていないようにも感じる。

 最近では過去に交際していた相手への復讐や報復のために相手の性的な画像や写真をインターネットに無断で公開する「リベンジポルノ」が大きな問題になっている。インターネットに公開された情報や画像はそう簡単に削除したりすることは不可能であることに加え、それらのデータは他人が一瞬のうちにコピーをして保存してしまうことも可能である。

 個人のプライバシーを傷つける「リベンジポルノ」のような行為は許されるものではない。不特定多数の人々が見ているインターネットでデータが悪用されることを考えただけでも震え上がるくらいだ。人間はすぐに忘れることができてもインターネットの世界ではそうはいかない。被害者が忘れた頃に被害はますます増えていくのだ。「忘れられる権利」はこのような人々を助ける救世主なのだ。

 「忘れられる権利」によって削除できる情報は社会保障番号やクレジットカード番号などの機密性の高い個人情報や悪意をもった人物が投稿した偽の情報、他人が誰かになりすまして投稿したものだ。削除の対象にならないものとしては有罪判決、歴史的情報、政府の情報だ。

 この「忘れられる権利」は基本的にEUの司法裁判所の管轄に及ぶ範囲内でしか行使されない。つまりEUの検索エンジンで削除されたとしても他地域の検索エンジンで検索をすれば検索結果として表示されるのだ。「忘れられる権利」が広大なインターネットの世界に効力を持つためには世界各国の協力体制がとれていなければ困難なのだ。しかし、各国の法律は必ずしも一律ではないために整備にはかなりの労力と時間がかかることは間違いない。

 「忘れられる権利」はインターネットという情報化社会から新しくうまれた権利である。インターネットというものの性質上、完璧に行使することはかなり困難を要することだろう、もしくは無理なことなのかもしれない。だが、この「忘れられる権利」について国際的に多くの国が話し合って、意見を交わすことは大変重要なことだと思う。

 「忘れられる権利」がきちんと行使されることも重要であるが、リベンジポルノのような被害に遭わないためにも自分自身にとって流布されると好ましくないデータや画像は他人に渡さない、個人情報をむやみに公開しないなど予防もしっかりしないといけないと考える。